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zoom RSS 書評;『失われた空間』 石合 純夫 著

<<   作成日時 : 2010/05/04 21:08   >>

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『失われた空間』というとなにか文学的な本のようにも思えるが、高次脳機能障害、それも「半側空間無視」について書かれた本である。

『失われた空間』石合 純夫著 神経心理学コレクション 医学書院 2009年 3,150円

半側無視はリハビリテーション(以下、「リハ」と略す。)に係わるものにとってはなじみの深い症状であると共に、非常にやっかいな症状でもある。また、一言で「半側空間無視」といっても個人個人で微妙に症状が異なる事もあり、評価自体についても難しさがあるし、治療(アプローチ)は本当に難しい面がある。
一番の問題は「病識のなさ」である。本人が異常を感じていないのにどうやってアプローチすればいいのか・・・。

本書は著者が半側無視に対して考えたりアプローチした、いわば「苦闘の記録」といえるのではないだろうか?いわゆる教科書的な記述ではなく、著者が疑問に思った事、調べた事などを物語的(というと語弊があるが)に記述している。読みながら疑問がわいてくると(当然ながら)著者も疑問に思い新たな評価や観察を行っていく。
半側無視とは何か、様々な観点からアプローチしていく様が書き込まれている。
なぜ左側を無視するのか?
目が見えない(視野欠損がある)のか?
なぜ患者さんは自信を持って「(模写が)出来た」というのか?
なぜ出来ない事に対する「病識」がないのか?
評価法によって結果が異なるのはなぜか?
にもかかわらず患者さんはそのものが何であるのか理解しているのはなぜか(半分に見えていない)?

そしてリハにおけるアプローチについてもきちんと記述している。

目次を一読された方が良いように思うのでリンクを(該当書店の該当書籍紹介ページ)
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=5665

尚、同じ著者の『高次脳障害学』 医歯薬出版 2003年 の半側空間無視の記述を見ると、本書に記載されている概要が「教科書的に」記載されているので、それほど興味のない方は敢えて本書を買わなくともよいかも知れない。しかし、より深い意味で半側無視、高次脳機能障害について考えたいと思っている方にはお勧めである。
著者がどんな疑問を持ったのか、どう評価してみたのか、その結果からどう考察していったのかといった「思考の流れ」を読み取る事が出来る。これって結構貴重な記述ではないかと思う。

尚、私も半側空間無視の患者さんと色々つきあってきたので若干疑問も残るのだ。
例えばp10のコラムの記述。「机上のテストで半側無視が検知出来ないのに移動時に問題があるのはテストの方法が悪いのでは」という記述。
これは机上では静止した状態で頭を使っているのに対して移動中は「歩行」という動作を行っている為に脳における課題遂行の為のメモリが減少する為、あるいは脳内に入ってくる情報量が飛躍的に増大する為に「半側無視」が発生しやすくなるのではと考える。
また、p29のコラムに関しても視覚的に左半側無視が発生しても触覚的には左への探索行動が可能な患者さんは実際に存在するわけで、この辺の問題はややこしいなあと思う。

それから、半側空間無視に対するアプローチとしてプリズムめがねを使ったリハに関する記述が多いのは嬉しい。なるほど、こういう事だったのかと改めて思った。

但し、リハに係わるOTとしては半側無視に対するアプローチが机上のものだけであるような印象を受けてしまう事に対しては少し疑問を感じる。
個人的には左半側空間無視の患者さんには、例えば坐位を取って左手へのウェイトベアー(体重負荷)を行ったり、頸部の回旋を促しつつ左空間への注意付けなど、身体全体を使った感覚入力や動きが有効ではないかと考えている。

ちょっと不満も述べたが、著者が分からない事、研究しなければならない事をきちんと記述している部分は本当に頭が下がるし、半側空間無視という症状やアプローチについて本当に様々なヒントのある、面白い本だと思う。

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