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zoom RSS 書評;『火星の人類学者』 オリヴァー・サックス著 1995?年

<<   作成日時 : 2010/05/23 16:20   >>

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『火星の人類学者 脳神経科医と7人の奇妙な患者』オリヴァー・サックス著 早川書房 2001年(原著は1995年) 800+税円

本書は3年程前に職場の同僚から借りて読んだのだが、同じ著者の『妻を帽子とまちがえた男』を読んで、改めて自分で購入して読み直した。

本書には「7人の奇妙な患者」が描かれている。色盲の画家、最後のヒッピー、トゥレット症候群の外科医、「見えて」いても「見えない」、夢の風景、神童たち、火星の人類学者である。
それぞれ突然色盲になった画家、病気で視覚と記憶能力を失った「元」ヒッピー、(突然飛び跳ねたり衝動的にあちこちに触れたり暴言を口走ったりする)トゥレット症候群の外科医、幼い頃から目が見えなかったが、50才になって手術で視力を取り戻したマッサージ師、遠い昔に後にした故郷の建物などを驚異的な記憶力で描く「記憶の画家」、一目見ただけで建物など見事に描くサヴァン症候群(自閉症患者のうち特定の分野に限って才能を発揮する人)の若者、動物行動学を大学で教え、酪農施設の設計を手がけている自閉症者である。

言ってみれば様々な高次脳機能障害を持つ人の「症例報告」なのだが、単なる症例報告に終わらないのは著者が実際にそれぞれの人に会い、家庭を訪ね、場合によっては一緒に旅行するなどして彼らの「障害の本質」が何かを考察し、過去の症例報告を検討しながら悩む。そういった過程もつづられた一種の「ルポ(orドキュメンタリー)」なのだ。
医学的な「症例報告」では著者の感想や主観は基本的に排除すべきものであり、患者に近づきすぎることはある意味タブーだし、病院に勤務していれば不可能に近いことである。

著者は言う。
『そこでわたしも白衣を脱ぎ、これまで25年を過ごした病院から離れて、研究対象であるひとたちの実生活をじかに探求することにした。』
こういう表現を見ると自分の興味のために「冷たい目」で「高次脳機能障害」を観察しようとする「血の通わない」医師と見られかねないのだが、本書を読むとそれは明らかに誤解であり、著者がそれぞれの人を「人」として何とか理解しようとし、その人の人生と高次脳機能障害の関わりについて考えていることが自ずと理解出来る。

私も作業療法士としていろいろな高次脳機能障害の患者さんに接してきたが、病院職員という立場では「退院するとさようなら」で、気になることはあってもその後のフォローは出来ない状態である。特定の患者さんにのみフォローは出来ないという「建て前」と自分の「いい加減さ」を感じてしまうのはこの様な本を読んだ時である。

本書を読むと「高次脳機能障害」というものは「見える」とは何か、「覚える」とは何か、「心」とは、「人の気持ちが分かる」とはどういう事かといったある意味根元的で哲学的な事を考えなければいけないことがよく分かる。
生理学や解剖学、神経心理学などの知識があっても、やはり「高次脳機能障害」というものは分かったようでもこの手をすり抜けてしまう蜃気楼のようなものなのかも知れない(自分の力のなさが大きいのだろうが)。

一般の方には著者と共に脳の働きとはどんなものかを考えていく「ミステリー」として読めると思う(若干難しい面があるかも知れないが、そこらあたりは読み飛ばしても十分楽しめる)。
高次脳機能について知識のある方は より深い意味での視覚・記憶・行動・心などについて考えさせられると共に「全人的な」理解、「高次脳機能障害」というある意味魅力的な症状に引き寄せられるのではなく、あくまで一人の「人間」としての関わり方を再考出来るのではないかと感じている。

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火星の人類学者
脳神経科医がユニークな症例を紹介してる本。 盲目が治ったために“視覚”に悩まされることになった人、有能な外科医なのにトゥレット症候群(奇矯な言動が頻発してしまう障害)と ... ...続きを見る
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